SDGsは大企業やグローバル企業を中心に広がりを見せつつありますが、中小企業の間ではまだまだ認知度が低いのが現状です。SDGsのお話をすると中小企業の経営者の方から、こんな声をよくお聞きします。
「SDGsは大企業で行うものではないのか?」
「中小企業には人的にも資金的にも余裕がない!」
「SDGsに取り組んでも大してメリットがないし儲からない!」
確かに、これまでの「CSR」の考え方、つまり「企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility」の延長で考えると、社会にとってよいことを行うために、事業で生まれた利益を「持ち出して」、本業とは別にプラスアルファでやってなくてはならないと考えてしまします。そうすると、SDGsは「人的・ 資金的に余裕がある大企業しかできないこと」となってしまい、人的にも資金的にも余裕のない中小企業は対応できないことになってしまいます。
でも、それは誤解です!SDGsはこれまでの「CSR」の考えた方とは異なります。SDGsの考え方は「CSV」、つまり「共創価値:Creating Shared Value」の考え方です。「CSV」とは、経済効果と社会的価値の創造を両立しようという考え方であり、「事業を通じて社会的な課題を解決し、それによって売り上げも上げていこう」ということです。
だから、人的・資金的に余裕のある大企業だけで取り組むものでもなければ、中小企業にとってメリットがない訳でも儲からない訳でもないんです。
中小企業がSDGsに取り組むメリットは4つあります。
1 SDGsで取引先拡大や新たなファン獲得!
2 SDGsで新商品・新サービスの開発!
3 SDGsで資金調達が有利!
4 SDGsで人材確保・人材育成!
この4つのメリットについて、一つ一つ説明していきます。
近年、サプライチェーン上の人権問題、環境問題について投資家の関心が高まっています。そのきっかけは、2013年に起きた痛ましい事故「ラナプラザの悲劇」です。アジア最貧国であるバングラディシュの首都ダッカ付近で、複数の縫製工場が入った複合ビル「ラナプラザ」が崩落し、多くの死者1,134人、負傷者2,500以上を出す大惨事となりました。
ファストファッションが広がる中、アパレル業界は安い労働力を求めてどんどん国をまたいだ分業制を進めていきました。その結果、自社製品がどこでどのようにつくられているのかを把握せず、国際社会から大きな避難を受けることになりました。この事故をきっかけに、サプライチェーンの川上の実態を明らかにし、川下に位置するメーカーもその責任を負うべきという意識が高まり始めたのです。
今は物流業界でも、エコプロダクツやエコマーク商品を優先的に調達しようとの動きや、オーガニック商品、フェアトレード商品を積極的に仕入れようという動きが強まっており、本業でCSR活動を推進している企業が優位に立つ場面も出ています。現に、SDGsに取り組む中小企業で大手企業との新たな取引につながったという事例が出ています。SDGsに取り組むことで、新たな取引に繋がる可能性も大いにあるんです。
また、この情報化社会の現代、消費者は常に企業の取組をチェックしています。もし、あなたの企業がSDGsの取組をPRすれば、あなたの企業の取組に共感するお客様が生まれ、ファンとなります。ファンは、価格ではなく、あなたの企業の考え方や取組に共感しているので、価格競争に巻き込まれません。
SDGsはもはや大企業だけの取組にしておくのはもったいない取組だと言えます。
消費者の価値観の多様化については言われて久しいですが、特にここ数年は激しく変化しています。それは、
ミレニアム世代、Z世代の台頭
です。
ミレニアル世代とは、1980年代から2000年代初頭の間に生まれた世代を指し、Z世代はさらに範囲が狭まり、1996年〜2012年の間に生まれた世代を指します。現在の10代後半から30代に当たる世代です。
二つの世代に微妙な違いはありますが、どちらとも「デジタルネイティブ世代」であり、ミレニアル世代はインターネットを広めた「デジタルパイオニア」、Z世代は高速インターネットもSNSも当たり前の世界で生きている「生粋のデジタルネイティブ」と言われています。
この世代の特徴は、従来の大量消費型の支出ではなく、自分の価値観や企業イメージ等を重視して、多少高くても自分が気に入ったものを購入します。誰もが知る高級ブランド品よりも“質”を重視する傾向にあり、無名ブランドでも製造工程や原料にこだわりのあるモノに価値を感じます。
例えば、海外の有名食器よりも日本人が手作りした1点モノの食器を購入する、原料にこだわった地産地消の商品を購入する、などです。こだわりのある商品はそれなりの価格がするものですが、同じ金額を出すなら高級ブランド品よりも、質にこだわった商品を選ぶ傾向にあります。
これから、ミレニアム世代、Z世代が消費の中心となります。SDGsに取り組むことにより、ミレニアム世代・Z世代の消費を取り込める可能性が高まります。SDGsに取り組んだ新商品・新サービスは、売上拡大に繋がるだけでなく、熱烈なファンを獲得することができます。これからの時代の顧客ニーズを考えても、SDGsで新商品・新サービスを開発することが非常に重要なんです。
SDGsは投資家も注目しています。
2006年4月、当時の国連事務総長であるコフィ―・アナン氏が機関投資家に対して、責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)を発表しました。PRIは、機関投資家が投資を行う際に、ESGの三つの要素を投資対象の決定に取り込むことを求めています。
ESGとは…
E : Environment(環境)
S : Social(社会)
G : Governance(企業統治)
のことです。
2018年末までにPRIに署名した機関は全世界で2,232。日本でも、世界最大の機関投資家として知られている年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のほか、大手生保や大手投信運用会社などが署名しています。
PRIが提唱されて以降、「財務情報」に加えて、「非財務情報」も重視されるようになってきました。「非財務情報」とは、環境対策やジェンダー平等、コンプライアンスなどへの取組など、ESGに関する内容です。この「非財務情報」であるESGを考慮する投資を「ESG投資」と言います。
2018年の世界のESG 投資残高は、2016年の22兆8,900億ドル(約2,518兆円)から34.0%増加して、30兆6,830億ドル(約3,375兆円)となっています。2016年初時点の世界全体の投資総額に占めるESG投資の割合は約4分の1でしたが、2018年の年初時点では35.4%と3分の1以上にまで増加しています。ESGに配慮しない企業は、年を追うごとに機関投資家から投資対象として選定されなくなっていくのです。
また、地域金融にもESG投資の視点を取り入れようという検討が政府で進められています。2019年、内閣府に「地方創生SDGs金融調査・研究会」が設置され、地域の社会課題解決に向けたSDGs金融、ESG金融のあり方について、検討が進められています。
更に、令和元年度補正予算事業「ものづくり・商業・サービス補助金」では、今回初めて、審査項目に「環境に配慮した持続可能な事業計画になっているか」という観点が追加されました。
SDGsの取組をすることで、資金調達が有利になっていくことが既に現実のこととなっているのです。
出典:日興リサーチレビュー
SDGsを積極的に経営に取り入れている先進的な中小企業では、その最大のメリットとして「従業員の活性化」を挙げているところが多くあります。中小企業や大企業と比較して知名度も低いですが、社会貢献や環境保全をすることによって地域に人たちに褒められるようになり、従業員が自分の仕事や会社に誇りが持てるようになるためです。
また、先ほど説明したとおり、これから会社に入ってくるZ世代の若者たちは社会貢献や環境保全に関心が高い傾向にあります。就職する会社は規模で判断するだけでなく、CSR報告書を取り寄せたり経営者や従業員の生の話を聞いて、その企業が社会や地域に貢献している企業がどうかをあらゆる情報を収集して確認します。なので、SDGsに取り組むことで、この採用難の時代に志の高い優秀な人材を確保できる可能性が高まります。
海外の研究結果によると、「幸せな社員は不幸せな社員よりも生産性が1.3倍高い」「幸せな社員は不幸せな社員よりも創造性が3倍高い」ということが、科学的に証明されているそうです。
SDGsに取り組み、従業員が働きやすい職場を作ることは、人材育成にも人材確保にもつながり、ひいては生産性の向上にも繋がります。
ここまで知ったら、もう「SDGsに取り組まない」という選択肢は採り得ないのではないでしょうか?
2017年1月に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)において、ビジネス&持続可能開発委員会(BSDC)は、2030年までに「企業がSDGsを達成することによって年間12兆ドル(約1,320兆円)の経済価値がもたらされ、最大3億8,000万件以上の雇用が創出される可能性がある」と発表しました。
また、東証一部上場企業を中心に構成され、1400社以上が加盟している経団連が、2017年11月8日7年ぶりに「企業・行動憲章」を改訂しました。その内容は、SDGsの達成を前面に出したものでした。
これにより、東証一部上場企業のような大企業の動きが大きく変わり始めました。SDGsに直結しない現業に固執し続ける企業は、持続可能な成長モデルに移行できないまま時代に取り残されてしまうため、大きく舵を切り始めています。
現在はサプライチェーン全体で責任が問われる時代です。取引先である中小企業にも「SDGsに対応していること」が取引条件になる可能性が大いにあります。現に、SDGsの取組が認められて、大手企業と新規取引に繋がった中小企業も散見され始めています。
これからの時代は、SDGsへの取組が大きなビジネスチャンスになりうるのです。中小企業の理解が進んでいない今だからこそ、ビジネスチャンスと捉えてSDGsに取り組むことで、将来のリスクを大幅に下げながら、持続的成長に繋げていく近道なのです。