ここからは、どうやってSDGsを中小企業の経営に取り込んでいくのか、具体的にご説明します。
SDGsを経営に取り込んで行く上で、世界的にスタンダードなツールとして用いられているものがあります。それは、国連グローバル・コンパクトなど3団体が共同開発した「SDGs Compass」というツールです。
このツールでは、企業がどうやって経営戦略にSDGsを取り込み、測定し、管理していくかを5つのステップで説明しています。
(左図参照)
このツールは大企業ではとっても使いやすいかもしれません。ですが、中小企業には少し使いづらいように感じます。というのも、各STEPについて細かい説明を読んでいくと、大企業を前提としたような大きな組織で進めていくようなことが書かれているからです。これでは、なかなか中小企業においてSDGsの導入がなかなか進んでいきません。
そこで、私の場合は、「中小企業診断士が開発した中小企業専用ツール」を用いて進めていきます。それは「SDGs経営推進フレームワーク」です。このフレームワークは、(一社)中小企業診断協会の「調査・研究事業」として実施されたもので、令和2年3月に「中小企業のSDGs経営推進マニュアルに関する調査研究報告書」としてまとめた中で作成されたものです。
もともと日本の中小企業の中には、「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように、当たり前の考え方として脈々と受け継がれており、欧米からSDGsとかESGと言われなくても、その前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきている企業もあります。
一方で、良い取り組みをしていながらも、自社の強みをよく分かっていない状態の中小企業もあります。一言で「中小企業」と言っても千差万別、全く状況が異なります。
ですので、中小企業の現状に合わせながら、中小企業診断士が経営者の方とSDGs経営について対話をし、その企業の新たな経営の方向性を経営者の理解と納得を得ながら、可視化していきます。
※この報告書は(一社)中小企業診断協会のサイトにも掲載されています。是非ダウンロードしてご覧ください。
https://www.j-smeca.jp/attach/kenkyu/honbu/r1/sdgs-keieisuisin.pdf
それでは、実際に「SDGs経営推進フレームワーク」を見てみましょう。ポイントは、「1枚で取組内容や効果が可視化できるようになっている」点です。
記載する内容は5つです。
A:自社の強み・経営資源(有形・無形)
B1:自社の事業が関連するSDGs目標1-16またはそのターゲット)
B2:連携・活用できる外部資源(SDGs♯17)
C:自社の経営・事業戦略(誰が誰に(Who)、何をどの程度(What)、いつまでに(When)、実現のための手段(How))
D:自社が得る経営上の効果・収益・経営資源・ブランド・その他
E :社会(地域社会)がどう変わるか?(Bに紐づけられる具体的な効果や貢献)
これらについて、取組内容や今後の方向性などをヒアリングしていきながら、作り上げていきます。
出典:「中小企業のSDGs経営推進マニュアルに関する調査研究報告書」p39
例えば、あなたが今後「SDGsに積極的に取り組んでいきたい!」とお考えの場合は、以下のステップで取り組みます。
①まず、あなたが貢献したい・関わりたいと考えているSDGsの目標を定めて、「B1」に記載していきます。ここでは、17個の目標のうち、プロセス目標である目標17を除いて、目標1~16から1つまたは複数の目標を記載します。記載する際は、SDGsの目標の言葉そのものではなく、あなたの会社に当てはまるように意味を解釈して記載していきましょう。
➁「B1」に記載したSDGsの目標達成に向けて、活用できそうな企業の強み・経営資源を探し、「A」に記載していきます。一見関連付けが難しそうな強み・経営資源であっても、全体を俯瞰すれば活用できるかもしれないので、なるべく広く書いていきましょう。
③ 「B1」「 A」を踏まえ、企業が進むべき方向性を経営・事業戦略として「C」に記載していきます。なるべく 5W1H を活用して具体的に書くと良いのですが、最初の段階では抽象的でも構いません。また、中小企業の経営資源だけでは達成困難なものがほとんどなので、積極的に外部資源の活用も考慮し、「B2」に記載していきます。なお、この「B2」は、SDGs の目標 17 に該当しています。
④ 「C」の経営・事業戦略を進めた結果、得られる社内の経営上の効果や成果を「D」に、同時に達成または実現できる社外の貢献効果を「E」に、それぞれ記載していきます。
⑤ すべての欄を一通り埋めた段階で、全体を見渡し、さらなる追加や修正を行っていきます。
出典:「中小企業のSDGs経営推進マニュアルに関する調査研究報告書」p41
もしかしたら、あなたの企業では「自社の強みがよくわかっていない状態」かもしれません。その段階でお悩みの場合は、以下のステップで取り組みます。
① 経営理念やあなたの思いをヒアリングを通じてお聞きし、それを「地域社会への貢献」の視点で「E」に記載していきます。それと同時に 、「E」への記載内容とSDGs の目標1~16 を紐付けしながら「B1」にもそれぞれ記載していきます。
② 「B1」の目標に対して、生かせる自社の強みや経営資源を「A」に記載していきます。
③ 「B1」「 A」を踏まえて、企業が進むべき方向性を経営・事業戦略として「C」に記載していきます。その際、なるべく 5W1H を活用して具体的に書くと良いのですが、最初の段階では抽象的でも構いません。また、中小企業の経営資源だけでは達成困難なものがほとんどなので、積極的に外部資源の活用も考慮し、「B2」に記載していきます。なお、この「B2」は、SDGs の目標 17 に該当しています。
④ 「C」を実行することで得られる企業の成果や効果を、「D」に記載していきます。
⑤ すべての欄を一通り埋めた段階で、全体を見渡し、さらなる追加や修正を行います。
出典:「中小企業のSDGs経営推進マニュアルに関する調査研究報告書」p46
ここまで、実際に中小企業でSDGsを経営に取り込む方法を説明してきました。
最後に、SDGsに取り組む上での注意点をお伝えします。それは、「SDGsウォッシュにならないようにする」ということです。英語では、上辺だけ取り繕うことを「ホワイトウォッシュ」と言います。「SDGs ウォッシュ」はそこから取った造語で、実態が伴っていないのに、上辺だけ SDGs へ対応しているように見せ掛けていることを指します。
時折、自社の取り組みに対して 17 ゴールのラベリングを行い、広告を出した段階で SDGs の取り組みを終えてしまっている企業を見かけます。それではSDGsに取り組んでいるとは言えません。
そもそも SDGs は将来のありたい姿を達成するために、現状何をしなければならないか、バックキャスティング思考で課題に取り組んでいくものです。従来のやり方にとらわれない、全く新しい視点、ビジネスのやり方が求められます。逆に言えば、そこに新たな発想とイノベーションの可能性があり、企業の成長に繋がる大きな可能性があります。
2030年にあるべき未来を描き、その世界であなたの企業が必要とされている姿を描いていく。バックキャスティング思考で、新しい時代に生き残る姿を考えていきましょう!